社団法人 日本テレワーク協会
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本レポートシリーズは、「一定以上の定着」を見せながらも、「今後に向けた課題とチャレンジ」がよりクリアになりつつある、「テレワークのいま・・・」につき、その状況を、公知資料を基にした分析洞察、並びに、弊協会会員企業等へのインタビューなどから、明らかにしてまいります。


Index

 

第1回 テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その1
2024.11.29
第2回 テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その2
2025.1.16
第3回 自治体のテレワーク・DX活用への挑戦 その1
2025.2.14
第4回 テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その3
2025.2.20
第5回 テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その4
2025.4.7
第6回 自治体のテレワーク・DX活用への挑戦 その2
2025.4.7
第7回 テレワーク・DX活用定着に向けたセキュアなデータマネジメントへの挑戦 その1

2025.5.13
第8回 テレワーク・DX活用定着に向けたセキュアなデータマネジメントへの挑戦 その2
2025.5.15

 


 

第1回 テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その1

第1回は「テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その1」として、コロナ禍により、業務の在り方が変容してきたなか、より効率よきサービス提供にチャレンジする変化を、お伝えいたします。

 

 

柔軟かつ安定的な運営を可能にする、コンタクトセンター業界でのテレワーク拡大

コロナ禍により、在宅ワークの選択肢が広まりました。コールセンター/コンタクトセンター業界も、その例外ではありません。

 

もともとの電話に加え、メール、SNS、チャットといった、ICT(情報通信技術)全般による非対面でのお客様コミュニケーション窓口を担ってきたコンタクトセンターですが、その運営側の事情としては、運営の安定性を担保しながらも、コストをどう柔軟に最適化していくか、という課題があります。

 

その課題に対して、以下の2つの方向性で対処できたことが、コンタクトセンター業界におけるテレワークの拡大の背景にあるといえます。

  1. セキュリティ性の高いクラウドサービスをはじめとした様々なICT技術革新・普及を活用することで、少子化・高齢化などからくる人員確保の困難さを、多様な働き方の担保をしながら、乗り越えられるようになってきたこと。
  2. コロナ禍により、分散業務を柔軟に安定的に実施できることが、コンタクトセンターにとっての必要要素と改めて見直されてきたこと。

 

テレワーク時代に一層大切な「気軽な、安心できる、コミュニケーション」

とはいえ、非対面でお客様に向き合うコンタクトセンター従事者にとって、メンタル面の維持管理は業務に安定的に臨むうえで、大切です。特に、在宅ワークで臨む場合は、殊更です。

その意味では「気軽な、安心できる、コミュニケーション」を取り続けられる工夫が大切になってきます。そうした工夫は、仕事として向き合うお客様にとっても、プラスの効用をもたらすものです。

センターで従事していても、在宅で従事していても、業務環境やセキュリティ、またお客様・同僚とのコミュニケーションを変わらず遂行できる・・・これが、テレワーク時代のコンタクトセンターにおいて、1つの理想形であると思います。
今後も様々な工夫が進んでいくものと思われます。

 

地方拠点にとってますます有利な、コンタクトセンター業界でのテレワーク

人材の確保しやすさ、そして働きやすさへの工夫もあいまって、三大都市圏以外でのコンタクトセンター数は着実に増加しています。リックテレコム社「コールセンタージャパン」編集部の2024年夏の調べでは、コールセンター拠点数が20を超える道県は、9つにのぼっています。

 

仮に、コンタクトセンターの募集賃金水準が、全国で一律に近い形をとることができるならば、地方拠点においては、地場賃金に比べて相対的に応募者が集まりやすく、結果的に、高スキルの方にまとまって従事いただける可能性が高まります。

更に、在宅ワークを組み合わせることで、家庭の事情や、自営・兼業等の状況をも鑑みた形で、そうした高スキル人材の方に対しても、柔軟な働き方を担保することが可能です。

 

次回は、そうしたコンタクトセンターの地方拠点をめぐる状況につき、実際に当会会員企業にお話を伺ってみたいと思います。

 


 

第2回 テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その2

第2回は「テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その2」として、当会会員企業である、富士通コミュニケーションサービス様の松山サポートセンターでの取り組み模様を、お伝えいたします。

 

ご対応いただいた松山センターの皆様

写真左より
田中 勝也 さま (シニアマネージャー)
真嶋 優  さま (シニアマネージャー)
越智 繭子 さま

 

時代に機敏に対応しながら、テレワークを大胆活用して、安定した運営を実施

富士通コミュニケーションサービス松山サポートセンター(以下MSC)は、松山市内の最も中心部、いよてつ松山市駅の至近に位置します。2003年の開設以来20年を越え、コロナ禍を乗り切り、安定した運営を実現しています。現在の従業員は360名あまり。女性比率はうち3/4、そして完全テレワーク比率も1/3以上と、働きやすいワークプレイスを実現されています。

 

MSCの部門の一つでは、コロナ禍以前から、テレワークへの取り組みを進めてきていました。紙ベースでの業務資料のやり取りが多かったところから、徐々にデータ化を進め、お客様要望や家庭事情等でどうしてもテレワークが困難な方々を除き、全員がテレワークをできる体制を整えてきました。

 

MSC開設当初より、様々な部門が加わり、その入れ替わりも生じてくるなか、稼働量に合わせたオフィススペースの柔軟な調整も実施してきました。さらに、テレワークの浸透によりオフィス内の座席数を適切に確保調節することができるようになり、オフィススペースの有効活用を一層進めることができる状態となっています。

 

広々とした共用スペース。憩いそしてイベントの場。天井が高く開放感がある。

 

テレワークの活用拡大による、働く方々のメリット
~安心して働けるワーク・ライフ・バランスの確保~

松山市は人口約50万人。朝晩の交通渋滞も激しく、また電車・バス等の運行スケジュールも限られることから、通勤は、MSCで働く方々にとっても少なからぬ課題でした。さらに、小さなお子様を抱えて働かれる方々にとっては、保育園の送り迎えの時間確保も、大きな課題でした。

 

しかしながら、テレワークの浸透により、自宅近くに保育園を確保されている方々にとっては、通勤時間を削減できたぶん、より多くの時間を働くことができるようになりました。また、お昼休みなどの隙間時間を利用して、買い物や洗濯、夕食準備などの家事も進められるようになり、時間の有効活用が進むようになりました。さらに、24時間サポートが必要な業務が生じた場合においても、シフト制にて、自宅で、安心して働けるようになりました。

 

これらの結果、MSCにおいては、正社員・準社員・無期契約社員といった、長期雇用形態で働かれている方々が8割を超えるに至っています。さらに10年以上勤務されている方も半数以上、そして離職率も極めて低率、と、安心して働ける環境が整っている状況がうかがえます。

 

MSC玄関。クリスマス気分が華やぎ、愛媛県のミカンの葉の色での内装がポップさを演出。

 

テレワーク中心での柔軟なコンタクトセンター運営を可能とした秘訣

現在MSCでは9つの業務部門を擁します。テレワークがこれだけ浸透する中、仕事のやり方が複雑になっているのではないか、とも想像していましたが、そこは様々な工夫でカバーされていました。

 

まず、TeamsやViva Engageといった、オンラインでのコミュニケーションツールをふんだんに活用し、いわゆる孤立感といったものを一切なくす工夫を進めてきました。さまざまな周知にも蚊通用し、また、困ったときは気軽に相談できる、チームのほかのメンバーが何をやっているかすぐにわかる、そうした個々のメンバーの心理的な安心感を担保することに、工夫を進めてきました。


また、部門リーダー間の密なコミュニケーションも見逃せないところです。業務上繁忙期・閑散期の生じやすいコンタクトセンターですが、稼働の柔軟な融通を前以てリーダー間で相談し、気心知れたメンバーもそれに対応できる、そうした雰囲気を醸成してきました。
さらに、お客様が安心できる、セキュアな業務基盤を築き上げてきたことも大きいです。各種ネットワーク・システム・ツールを活用した二重三重のセキュリティで、ゼロトラスト時代にも対応した業務環境を築いています。

 

今回、松山センターを取材させていただいたのは、当協会のテレワーク川柳が1つのご縁となりました。センター内で川柳大会を開催されるなど、地元・愛媛ならではの良さを、ふんだんにイベントそのほかのセンター運営に取り込み、テレワークを上手に活用しながら、センターとしてのチームアップを図っていく、そうした細やかな工夫が、印象に残りました。

 

次回以降は、コンタクトセンターに加えて、自治体戦略についても、テレワーク・ニューノーマルの状況を探ってまいりたいと思います。

 


 

第3回 自治体のテレワーク・DX活用への挑戦 その1

第3回は「自治体のテレワーク・DX活用への挑戦 その1」として、各地方自治体に共通するであろう状況を踏まえつつ、どういった道を目指していくべきか、について、お伝えいたします。

テレワーク推進は、自治体におけるDX推進施策の一環の側面も

地方自治と情報通信の双方を所管する総務省では、テレワーク推進を、情報通信技術(ICT)利活用の促進施策の一環としても位置付けると同時に、地方自治体におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進施策の一環としても位置付けています。

令和2年(2020年)から同省にて開催されている、「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会」においても、直近の昨年10月の検討会では「自治体フロントヤード改革に係る手順書の作成」が議論され、そのなかでも「リモート窓口」が1つの柱として挙がっていました。

 

とはいえ、地方自治体におけるテレワーク・DXへの取り組みは、自治体によって様々です。

その要因は、主に以下の5つといえます。

  • 推進する人材(トップ層、現場層、専門家層)の状況が様々
  • 取り組みにあたって投下可能な予算状況が様々
  • 自治体内外で活用可能なノウハウ・リソースの状況が様々
  • 自治体内部のプロセス見直しと、自治体の「顧客」ともいえる住民・企業等活性化との、比重・バランス・連携状況が様々
  • 住民・企業等からみて、自治体のテレワーク・DXへの取り組みにつき、認知され後押しされている状況が様々

 総務省やデジタル庁をはじめとした中央省庁でも、様々な共通基盤支援/共有可能なノウハウ支援 をしていますが、こうした自治体個別の状況に適応しながら、全体としてテレワーク・DXを進めていくには、確固たる道標と弛みない努力・工夫が大切な状況は、続いています。

自治体トップ層のコミットメントも重要な、明日を支える喫緊の取り組み課題

とはいえ、地域人口も、公務員職員数も、今後、維持していくことが容易ではないなかで、テレワーク・DXの活用により、いかに柔軟に自治体サービスを維持し、かつ、職員の皆様にとっても働きやすい環境を整えていくかは、喫緊の課題でもあります。

 

前例主義、という言葉が、とかく引き合いに出されがちですが、テレワーク・DXの活用については、十分な前例があるとはいえないため、自治体としての道標づくり、創意工夫、そして自治体どうし・自治体内外でのノウハウ共有が、極めて大切になってきます。

またそこでは、新たにその自治体を支えていく層である、若年層からの支持も、長い目で見て、大切になってきます。

 

こうした広くそして長い視野が必要となってくる際に、先に挙げたトップ層は特にその重要性を増してきます。トップ層がしっかりとコミットすることで、現場層や専門家層も、より生き生きとして、地に足をつけた明確な目標を以て、当該自治体におけるテレワーク・DX推進に取り組みやすくなります。

将来にわたって重要となる、自治体におけるテレワーク・DXへの取り組みスタンスとは?

テレワーク・DX共に、取り組みとしては軌道に乗りつつあるものの、可能性と課題とが相半ばしている、というのが、少なからぬ自治体の現状でしょう。
そこにはやはり、人対人の直接の触れ合いを大切にしていきたい気持ちもあり、また、これまでのやり方が変わることに対する不慣れや不安もあり、他方、取り組みが進むことによる、新たな働き方の定着や、新たな人材の定着、新たな人的交流の拡大、といった希望もあり、という多様な背景があるものかと感じます。

が故に、他自治体の事例を参考にしつつ、自らの自治体に適用することも、直ちには容易にいかないものかもしれません。

 

こうしたなか、多様な背景のバランスをとって進めていく際に最も大切なのは、将来にわたってその地域を背負っていくであろう、住民、企業、そして自治体の若手の方々です。「デジタル・ネイティブ世代の意見をどううまく取り入れ(そして、よりシニアな皆様の意見をどう取り入れ)、サステナブルなテレワーク・DX環境を作っていくか」がその自治体にとりチャレンジであり、かつ、長い目で最も大切なことと思われます。
ここの力点がはっきりしてくると、他自治体/他企業から何を参考にしていけば、自らの自治体の良さをテレワーク・DX活用において光らせられるか、という点が、クリアに出来てくるかと思います。

 

古くから、地元の良さに、外部の良さをうまく取り込みつつ、伝統を紡ぎ高めてきた歴史を持つ各地域にとって、そうした営みを進めていくことは、「言うは易く行うは難し」と一見みえつつも、一旦着手してみれば、そう難しいことではないと思われます。そうした営み自体が、それぞれの自治体・コミュニティにおける各種課題を乗り越え、明日を照らす、道標としての希望になっていくのではないか、とも感じます。

 

次回以降は引き続き、コンタクトセンターおよび自治体における「テレワーク・ニューノーマル」挑戦状況につき、実際に当会会員組織にお話を伺っていきたいと思います。


 

第4回 テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その3

第4回は「テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その3」として、当会会員企業である、ビーウィズ様の取り組みを、お伝えいたします。

ご対応いただいたビーウィズの皆様。

写真左より
酒井 匡  さま (執行役員 事業戦略企画部長)
早川 智子 さま (事業戦略企画部 副部長)
井口 大  さま (事業戦略企画部 マネージャー)

コロナ禍以前から培ってきた、自社クラウド技術を活用し、コンタクトセンター業務を在宅型にも本格展開

ビーウィズ社は、パソナグループに属し、東京証券取引所プライム市場に上場する、コンタクトセンター大手の1社です。

同社のユニークな特徴として、自社グループにてクラウド型のコンタクトセンターシステム(Omnia LINK)を開発・保有している点があります。もともとこの営みは、コンタクトセンターシステムをシステムベンダー依存しているところから脱却し、コスト競争力を高めるために始めたものですが(2017年に外販も開始)、コロナ禍となって、ビジネス継続性(BCP)の観点から、この独自性が活かされることとなりました。

 

クラウド型の自社システムを活用することによって、集合センター受付型でなくとも、在宅テレワークにてセンター展開することが容易にでき、コロナ禍のなかでも十分な受付席数を安定的に確保できる業務環境に至り、これはその後の度重なる災害等でも活かされることとなりました。

業務特性やクライアント要望を踏まえながら、徐々に自社クラウド型システム活用範囲を拡大し、現在では電話対応業務におけるシステムの8割強を賄っています。

 

また、コロナ禍によって、非対面の生活様式が大きく広がり、それにあわせてクライアント組織においても顧客接点のデジタル化が進み、店頭等での実接触からコンタクトセンター等への需要シフトも進みました。更に、働き方としてのテレワークが、働き手からもクライアント組織からも十分な認知を得ることにもなり、これもコンタクトセンターにおける人手不足解消の一助となりました。

内製化したクラウド型コンタクトセンターシステム「Omnia LINK」(同社IR資料より)

在宅型コンタクトセンターの行方

一定の定着を見せた在宅型コンタクトセンターですが、「今後は、集合センター受付型への一方的な揺り戻しはなく、在宅型と集合型のハイブリッドが主流になる」と酒井さんは断言します。

一口にハイブリッドといっても、さまざまなパターンがあり、業務ごとに在宅人員と集合型人員とのバランスがとれる、というパターンもあれば、働き手お一人のなかで、在宅シフトと集合型シフトを期間内でミックスされる、というパターンもあるとのことです。

 

こうしたハイブリッドが主流になる要因ですが、クライアント組織側の事情として、セキュリティポリシーや個人情報取扱の厳格さ、もしくは本業との連携円滑化による集合型形式への支持がある一方、働き手の事情として、通勤の削減、家事育児との円滑な両立等による在宅型への支持、という双方が存在することが、背景にあるようです。

実際、在宅型勤務が可能な案件には、そうでない案件の10倍規模の応募があり、採用コストの抑制・優秀人材の獲得につながりやすいとのことです。

 

また、ハイブリッドは結果として、従業員リテンションにもつながる部分がある様子で、欠勤率や退職率(特に職について間もない初期離脱率)を抑制できる効用があるそうです。

集合型であっても、在宅型であっても、自社開発の同一システムで業務にあたることができるため、働き手ご自身の状況や業務都合にもあわせて、就労場所を選択できることも、リテンションにつながっているようです。これは、クライアント組織からしても、より長期の雇用継続が望め、かつクライアント組織に関するナレッジの共有度が上がるというメリットがあるようです。

 

東証プライム市場上場を記念して作成したもの。全社員の氏名が記載されているとのこと。

在宅型コンタクトセンターでの勤務をより快適にしていくために

コロナ禍において、既存クラウド型システムを活用して、在宅型勤務にシフトを進めた同社にとっても、やはり試行錯誤は様々あり、それらを乗り越えて、現在に至っているとのことです。

 

まず、対人面では、オンラインであっても、日々の声掛けや朝会などを丁寧に実施し、フランクに話せる環境を維持することが最も大切と考えています。

また、システム活用面では、クラウドの特性を生かして、集合型であっても、在宅型であっても、同一システムで受付ができる状態を確立しました。このシステムには、モニタリング機能(Be-mon)も備わっていますが、「スーパーバイザーがオペレーターを一方的にモニターする」スタイルではなく、「(音声認識によるやり取りの文字化などを、リアルタイムで実現しながら、)スーパーバイザーもオペレーターも、同一画面を見つつ、情報を共有しあう」ところに特色を持たせています。

元々このBe-monは、研修用ツールとして自社開発したものですが、コロナ禍での在宅型の広がりを踏まえて、研修ツールから状況共有ツールへと改善・発展していった経緯を持っています。利用しているオペレーターも、監視されている、という感覚ではなく、見守られている(何かあっても、いつでも助け舟を出してくれる)、という感覚で活用しているため、定着度の向上に貢献している、ということです。

AIを活用した顧客接点トータルソリューションTetoty (同社資料より)

DX時代におけるチャレンジ

内製でシステムを開発し、日々の活用を通じて磨き上げることで、在宅型を含めたコンタクトセンタービジネスを発展させてきた同社にとって、今後のチャレンジは、ますます進む、顧客接点の非対面化/デジタル化への対応です。

 

特に、コンタクトをされてくるエンドユーザーにフルサポートで応えるために、最初はエンドユーザー自身で知りたい答えを探せる仕組みづくり(FAQの活用、AIチャットボット等の活用)から、どうしても人による対応が必要な機微な内容のものをオペレーターにつなぐ、そういった一貫した設計・運用が、顧客接点ソリューションの主戦場になってきつつあります。

同社もTetoryというシステムで、ここに参戦をはじめていますが、AIベンダー、コンサルティングベンダー等、様々なプレイヤーが、それぞれのバックグラウンドを持ちつつアプローチしている中、「自社開発システムを、在宅型を含めた実オペレーションにて磨き上げてきたこと」に強みを持つ同社が、いかにして柔軟に、差異化を以て臨んでいくかは、同社にとっても、日本の顧客接点ソリューションの進化にとっても、チャレンジになりそうです。

 

第5回 テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その4

第5回は「テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その4」として、同小編のここまでの区切りとしての小括を、お伝えいたします。

コールセンターの女性

テレワーク浸透の今後の全体動向の目安ともなる、コンタクトセンター業界

コンタクトセンターはいまや、対顧客のみならず、社内プロセスの集約窓口(いわばBPO:ビジネスプロセスアウトソーシング)としても機能しています。かつ、受託する業種・自治体も幅広かつ全国にまたがっており、更に、テレワーク業務との親和性も高いことから、「テレワークの動向全般を探る業態」としては、最も適切な1つともいえます。

また、コンタクトセンター業務においては、すでにお伝えしてきた通り、テレワーク可能案件とそうでない案件とでは、数倍~十倍程度の求人倍率の開きがあります。高倍率をくぐり抜けて、一旦、テレワーク可能案件に採用された方は、ご自身の事情に合わせてより長い期間、柔軟に働くことも容易であり、そのことは、委託する業種・自治体様をめぐる業務ナレッジを高めることにもなるため、いわば「三方よし」の関係を築きやすいことになります。
 

しかしながら、コンタクトセンター業界全体では概ね、テレワーク業務は、10%台にとどまっているとみられます。これだけ「三方よし」の関係性を築きやすいところ、なぜこの水準にとどまるのか、様々な意見交換の中から、3つほど得られた背景がありますので、今回はコンタクトセンター編の小括として、ご紹介いたします。

コンタクトセンターにおけるテレワーク浸透水準を左右するもの 
①決済関連業務のセキュアなクラウド化

まず1つは、金融決済がからむ業務における、セキュリティの環境・考え方をめぐるものです。

私たちが通常、テレフォンショッピングを行う際も、そこで、代金についてのやり取りがあり、時にはクレジットカード番号をお伝えするなどして、決済行為が発生しますが、これもその1つです。

アクセンチュア社が、コロナ禍の最中の2020年秋に、関連するブログを掲載されていますので、やや長めですが、引用いたします:

 

「(前略)金融機関はリモートワーク体制の構築という面で特に大きなチャレンジに直面するセクターです。その理由の1つは、金融機関の事務センターが特定ロケーションでのオペレーションを前提としていることです。顧客情報や契約・資金移動にまつわる情報など、事務センターでは機密性の高い情報を取り扱っており、入退室管理や監視カメラなどの高いセキュリティーレベルの設備や制度が徹底されています。また紙ベースの業務や勘定系・基幹系システムの存在も大きな制約となっています。近年、国内金融機関でもWebベースの取引機能拡充が進められていますが、依然として紙ベースの業務は多く存在し、事務センターでの書類管理・処理が不可欠です。システム面でも、事務センターに設置された勘定系システム等のスタンドアロン端末は他のネットワークから独立運用されていることが多く、アクセスが物理的に隔離されたネットワーク内に限られています。(後略)」

 

どんなにテレワークを拡大している金融関連組織でも、やはりこうした点は大きく変わらないといえ、このシステムを業務上活用・準用している他業界のテレワーク業務においても、これに準じるセキュリティ環境・考え方がおのずと要求されることになります。

 

現在、このような勘定系・基幹系システムにおいても、通常の業務アプリケーションと同様の「クラウド化」は、少しずつ進みつつありますが、それでもこれが主流になるには、同等の規模感並びにセキュリティを担保したシステム開発・移行となるが故に、今後数年を要しそうです。逆に言えば、テレワークの更なる拡大・浸透の観点からは、この動向が1つの着目点になりえます。


コンタクトセンターにおけるテレワーク浸透水準を左右するもの 
②従事者に対する報酬制度設計の柔軟さを担保する、割増サービス料金の浸透

特に土日、そして深夜にわたるコンタクトセンター業務については、柔軟な対応が可能なテレワークが、従事者から好まれる傾向にあります。しかしながら、従業員全体への報酬制度設計の観点からは、法で定められる一定の割増金を除いては、なかなかベネフィットを付与しづらい現実もあります。この背景には、土日、深夜業務について、コンタクトセンターを利用されるエンドユーザーの方から、割増の手数料を徴収しがたい現実があります。
 

土日や深夜の割増サービス料金は、様々なサービス関連業務で一定の定着を見せていますが、これがより広がってくることで、コンタクトセンター企業としての報酬制度設計もより柔軟に組みやすくなり、結果、テレワーク実施業務が拡大することにもつながってきます。

報酬制度設計に限界がある中では、正社員全体で週ベース勤務時間を揃えるなどの前提で、テレワーク実施者と非実施者との間で、実働日数に差をつけて調整する手法もあるようですが、それでも週トータルの勤務時間が同一のため、勤務日に長時間勤務シフトのしわ寄せが行くなど、テレワーク実施者の正社員に必ずしも十分なメリットがいかない状況もあるようです。

割増賃金
(厚生労働省サイトより)

コンタクトセンターにおけるテレワーク浸透水準を左右するもの 
③プロフィットセンターとしての価値発現

更には、コンタクトセンターが、非対面型の顧客接点として重要な役割を果たし、実質的な営業機能をも担っている側面に照らし合わせて、プロフィットセンターとしての認知・価値発現がより進むことで、②にもましてより柔軟な働き方の原資を得ることにつながってくる点も見逃せません。

 

そのポイントとして、「コンタクトセンターのデジタル武装」がより重要となってきます。顧客の声を的確に拾い上げ、分析し、逆提案して、顧客経験(CX)を向上させることで、名実ともにプロフィットセンターの要素を、コンタクトセンターが帯びてくることになります。

この道筋の1つは、アデコ社のレポートに記されており、以下該当部分を引用いたします。

「(前略)まず、顧客の声を収集し、それをCRMなどのシステムを通じて体系的に整理することが重要です。このデータを分析し、得られたインサイトを基に具体的なアクションを策定します。ここでAIや音声認識技術を導入することで、データ分析の精度を高めることができます。しかし、課題も存在します。例えば、オペレータの多様なスキルセットの習得や、デジタルツールの活用に関する研修が必要となり、これには時間とコストがかかります。さらに、こうした変革を進める中で、全社的なサポートと理解を得ることも重要な要素となり、このプロセスが確立されることで、企業はコンタクトセンターを効果的にプロフィットセンターとして機能させることが可能になります。(後略)」

 

「テレワーク業務であっても/テレワーク業務ならではの、“稼げる”コンタクトセンター」となれば、委託する企業も、長期雇用と業務ナレッジ維持向上が望める、テレワーク型の業務委託をより推進することになるでしょう。

さまざまな業態で、非対面型対応のメリット認知が広がり、エンドユーザーからも選好されていく中で、シニア層/富裕層からは「手軽に的確に相談できる」、若年層からは「調べてもどうしてもわからないことに対応してくれる」コンタクトセンターの価値はより重要になっていくとともに、貴重な顧客の声を拾うポイントとしても委託企業/組織からはより重視されていくはずです。

この道のりを、着実に歩んでいくことが、テレワーク業務の更なる浸透にもつながっていきます。

 

プロフィットセンター
(総務省 令和元年度 情報通信白書より) 

 

第6回 自治体のテレワーク・DX活用への挑戦 その2

第6回は「自治体のテレワーク・DX活用への挑戦 その2」として、当会会員自治体である、岡山県津山市様の取り組みを、お伝えいたします。

 

 ご対応いただいた津山市の皆様。写真左より

 沼 泰弘 さま
 (産業経済部次長 兼 みらい産業課長。つやま産業支援センター事務局長)

 大田隆二 さま
 (産業経済部みらい産業課 主幹)

津山市の弛まざる産業振興へのチャレンジ ~IoT/DX時代にもキャッチアップ~

岡山県北部の中心都市である津山市は人口約10万人。かつてより美作(みまさか)国および美作地域の中心地として発展を遂げ、近年では、人気ロックバンドB’zの稲葉浩志氏をはじめ多数の才能を輩出している地としても著名です。

そうした津山市で、長年にわたり、産業振興の旗振り役を務めてきたのが、つやま産業支援センターです。前身のつやま新産業開発推進機構が発足してからまもなく30年を迎えます。

全国の自治体で、こうした産業振興を支援するセンターは多く存在します。しかしながらここ、つやま産業支援センターは当初から、新たな産業クラスターの創出を企図し、かつ、地元に存在する国立津山工業高等専門学校と二人三脚で、地元産業の深掘り、および新たな産業機軸へのキャッチアップを着実かつ連続的に進めてきたという点で、非常に貴重かつ稀有な存在です。


2016年には津山ロボットコンテストを国際大会に拡充、2017年には津山まちなかカレッジ開設、2018年にはつやまエリアオープンファクトリー開催開始、2019年にはつやまICTコネクト結成、2022年にはクリエイティブ人材ネットワーク結成と、立て続けに、時流を読んで時流を踏まえた幅広かつ浸透的な産業振興施策を、高専・地元企業・地元金融機関等と連携して打ってきました。こうした背景もあり、2020年にはIoT推進ラボに、2023年には地域DX推進ラボに、それぞれ津山市が選定されるなど、IoT/DX時代を見据えた弛まざるキャッチアップを着実に進めてきています。

 

つやま産業支援センター玄関。津山市役所東庁舎1階に位置。

津山市にとってのテレワークとは?

そうした各種取り組みのなか、場所を超え、地域を超え、「働く」「究める」を進めていけるテレワークは、津山市にとって不可欠なものです。

つやま産業支援センターでも、市内に点在するテレワークオフィスを「Tsuyama Biz テレワークオフィス」サイトにて面的・網羅的に紹介し、市内外の方に気軽に活用いただける工夫を行っています。

岡山駅/岡山空港から1時間強、京阪神からも中国自動車道で2時間圏といったアクセス、また創業支援を制度的にも専門家面でも支える体制、更には、地元との産学金連携体制は、テレワーク立地に迷われている方には、非常に心強いものともいえます。

また、美作地域には、著名な通販事業者も立地し、すでに在宅を含めたコンタクトセンター展開も実施しているなど、「テレワークが根付いた土地柄」であることも感じられる地域です。

市内中心部に立地する古民家を改装したサテライトオフィス&コワーキングスペース「Ziba Platform」。

津山を本拠とする小売事業者がリードするNPO法人が運営しており、地元産業界からの理解・期待の大きさもうかがえます。

テレワークを利用した、更なる産業活性化に込める、津山地域の期待

津山市は、もともと城下町として商業が盛んだったことに加え、京阪神圏および首都圏と直結する中国自動車道が開通した1975年ごろを境に、工業立地としても脚光を浴びてきました。現在では、域外からの大手企業進出を含めて、200以上の製造業事業所が立地し、市内に複数の大型工業団地が操業する、有数の内陸工業都市です。

先述の津山高専に加え、専門科を持つ高等学校も複数立地し、スキルのある若者が、即戦力として地元で就職できる、そうした強みも持ってきました。

こうした流れを、AI/IoT/DXの時代にも継承して、更なる地元の発展につなげたい、というのが、沼さん・大田さんの想いでもあります。


ご承知のように、AI/IoT/DX人材は、世界的といっても良い供給不足となっています。つやま産業支援センターとしても、これを好機と捉え、高専卒業生ネットワークを駆使したり、また首都圏でのMeet Upを試みたりして、少しずつ、リーチを拡大しています。

短期かつ定期滞在のテレワークや、二拠点居住、将来的なU/J/Iターンなど、様々なパターンに対応した域外からの企業受け入れを、試行・実現していきたいと考えています。また、市がリードして、地元人材のリスキリングも今年から強化していくとのことで、すでに学校・社会人として実務的知識をいったん得た人々の活躍の場がさらに広がることにもなりそうです。

 

インフラとしては十分に整っており、かつ、高専・地元企業等との連携による産業クラスター形成の実績も有するなか、あとは、マッチングの好機を捉えていき、流れを軌道に乗せていきたい、そして、ゆくゆくは津山地域を拠点としたAI/IoT/DX時代の産業クラスター形成につなげ、地元内外のスキル人材が安心してここ津山で働ける場を増やしていきたい、と沼さん・大田さんとしては考えています。

既に津山地域において形成され、日本有数の規模を誇る「ステンレス・メタルクラスター」。

AI/IoT/DXの時代においても、こうした仕掛けを着実に続けて、成就させていきたい、というのが、つやま産業支援センターとしての狙い。


第7回 テレワーク・DX活用定着に向けたセキュアなデータマネジメントへの挑戦 その1

第7回は「テレワーク・DX活用定着に向けたセキュアなデータマネジメントへの挑戦 その1」として、各組織に共通するであろう状況を踏まえつつ、どういった道を目指していくべきか、について、お伝えいたします。

 

 

【本記事のポイント】

〇 セキュアなデータマネジメントは、テレワークをはじめとする、デジタル時代の柔軟な働き方を担保する技術要素の1つです。

〇 この普及背景は、以下の2つです。

(1)コロナ禍を経ての非対面型へのシフトによるデータ重視の高まり。

(2)対面型/非対面型ハイブリッドでの総合分析の必要性の向上 

〇 即ち、セキュアなデータマネジメントは、テレワーク・DXとの親和性の高い、いわば「相棒」ともいえます。

 

【キーワード】

# データマネジメント  # DMBOK  # データを常に適切に安全安心に活用できる技術・取組  # 対面・非対面のハイブリッド

セキュアなデータマネジメント ~デジタル時代の柔軟な働き方を担保する技術要素の1つ~

デジタル時代の柔軟な働き方を支える技術要件は様々存在しますが、そのなかでもこと、テレワーク・DXについては「コラボレーションやコミュニケーションをめぐる技術」そして「それを支えるセキュリティ技術」の大切さが挙げられます。この両者については、当協会「ソリューションの紹介」ページからリンクのある「テレワーク関連ツール」にて、より詳細をご覧いただけます。(前者:「コミュニケーションツール」P1417、後者:「システム方式」P713


と同時に、テレワーク・DXにおいて、働き手がいつでもどこでも誰とでも、柔軟に協働できるようにするには、目の前にあるPCそのほかの端末から、共に扱える「中身」を的確にマネージすることが重要となります。その「中身」として最も大切、かつ守るべきものが、業務や顧客状況などを網羅した「データ」であり、これを、テレワークをはじめとした協働時に、安全に最適活用できるようしていくことが「セキュアなデータマネジメント」です。

 

・・・「データ」と一口に言っても、個人情報であるとか、また社内意思決定文書であるとか、お一人お一人、様々なものを想起されるかと思います。

当然、これは業種によっても異なります。例えば、金融・決済関連では、1つ1つの取引データ、また、映像コンテンツ関連業務に携わる方にとっては、制作仕掛中のコンテンツデータ、また、設計業務に携わる方にとっては、仕掛中の設計情報、といった形です。これらを一言で要約すると、「業務上価値のあるデータ」(=逸失・漏洩・破壊されると、損害の発生するデータ)、となります。こうした「価値あるデータ」を、集合オフィス以外でも安心・安全に扱っていけるようになることで、更に分散型のテレワーク/リモートワークが進んでいく、という文脈です。

 

データマネジメントについては、いくつかのサイトでの解説を参照すると、テレワーク等における核心が見えてきやすくなります。例えば、米国DMBOK(Data Management Body Of Knowledge:データマネジメント知識体系)では、データガバナンス、メタデータマネジメント、データクオリティマネジメントを含む、10個の主要機能から成る、とされています。更に、NTT東日本の解説サイトでは「データを管理することで、データを適切に活用できるようにし、ビジネスにつなげること」「管理といってもその意味合いは幅広く、データを蓄積しておくシステムの構築や設定、データのセキュリティ管理、データ品質の管理、それらを維持するための取り組みなども含まれ」る、としています。

つまり、目的に応じてデータを常に適切に安全安心に活用できる技術・取組全体が、セキュアなデータマネジメント、といってよさそうです。これは、テレワーク・DXの更なる普及推進においても、必要不可欠な要素といってよいでしょう。 

 

 

セキュアなデータマネジメントの重要性が増した背景 ~2つの行動様式の変容~

では、とりわけテレワーク・DXをめぐって、なぜ、セキュアなデータマネジメントの重要性が増してきたのでしょう? それは、コロナ禍における、2つの行動様式の変容がカギを握っているといえそうです。

 

まず、対面型から非対面型へのシフトが起こり、それが定着したことです。これまで、業務等において「顔や雰囲気を伺いながら」こなしてきたものが、テレワーク等の普及により、文字や音声、もしくは画面を通じた形となり、その不足を安全かつ客観的な形で補うものとして、セキュアなデータマネジメントの重要性がクローズアップされてきた、という流れです。

もともと、欧米では、広大な経済圏をいかし、国や州をまたいで、数千キロも離れた拠点間で、テレワーク等の協働業務が日常的に行われ、そこでセキュアなデータマネジメントが重視されてきた部分もありましたが、日本ではそうした慣習が薄かった分、コロナ禍での非対面型業務の広がりに伴う動きが急速だったといえるでしょう。

 

もう1つ、非対面型の定着により主流となった、インターネット経由での取引やコミュニケーションに基づく情報と、対面型で得られた情報とを、バランスよく総合的に把握・分析して、業務戦略を練る必要が増してきたことがあります。

こうした、いわば「ハイブリッド」な業務推進状況においては、情報収集や分析を安全かつ迅速に行い、諸環境に応じた柔軟な行動に移していくために、セキュアなデータマネジメントを研ぎ澄ませ続けることが必須となってきています。

 

セキュアなデータマネジメントは、テレワーク・DXとの親和性の高い、いわば「相棒」

このように、コロナ禍による行動様式の変容が大きなきっかけになったことからも、テレワーク・DXと、データマネジメントの親和性は高い、ということがいえます。

 

例えば小売関連事業者のように、常にお客様に向き合うために「場所や時間を問わない、お客様ニーズを踏まえた、ビジネス活動」が重視されているところでは、店舗/電子商取引を問わず、また自宅/移動中のサードプレイスを問わず、同一体系のもと、リアルタイムに近い形で統一的に整理されたデータを見て、お客様ビジネスに最善な協働アクションをとっていく必要があります。つまり、「場所を問わず、個々のお客様に常に向き合い、そこでの商機をチームで最大化する」ための、セキュアなデータマネジメントということがいえます。

 

また、建築・インフラ関連事業者においても、設計・施工・管理というプロセスにおいて、現場以外でのバックヤードの動きがますます重要になってきています。「いかに現場での労力を最小化・最適化し、限られた人員で遂行していくか」に重きを置くために、テレワーク等をより積極活用する形での、セキュアなデータマネジメントが重要となってきました。

 

・・・コロナ禍からの事業回復を経て、このような動きは、各業界でますます顕在化しています。テレワークやデジタルツールをフル活用することで、セキュアなデータマネジメントが、いわば「相棒」として、ますます研ぎ澄まされていく、ということにもなります。

次回以降も引き続き、「テレワーク・ニューノーマル」挑戦をめぐる各種状況につき、実際に当会会員組織にお話を伺うなどして、お伝えしていきたいと思います。


第8回 テレワーク・DX活用定着に向けたセキュアなデータマネジメントへの挑戦 その2

第8回は「テレワーク・DX活用定着に向けたセキュアなデータマネジメントへの挑戦 その2」として、当会会員企業である、株式会社リンク様の取り組みを、お伝えいたします。

株式会社リンク 滝村さま

ご対応いただいた株式会社リンク


滝村 享嗣 (たきむら みちつぐ) さま

 (セキュリティプラットフォーム事業部長)

【本記事のポイント】

〇 クレジットカード決済業務のクラウド環境化に際して、世界標準を活用しながら、日本国内の取り組みをリード

〇 クレジットカード業務のリモート化/テレワークがさらに進む2つのカギは(1)パブリッククラウド活用のさらなる普及 (2)業務をめぐる切り分け・絞り込みによる、最少範囲・最適ソリューションの適用

 

【キーワード】

# クラウド  # クレジットカード決済業務  # PCI DSS  # カード情報の非保持化 #クレジットカード業務のリモート化 # トークン化

 インターネット草創期からいち早くクラウドサービスの将来に着目。クレジットカード決済業務のクラウド環境化においても世界標準を活用して国内をリード

リンク社は、インターネット草創期から、データセンタビジネス、そして今でいうクラウドサービスビジネスに、日本国内でいち早く取り組んできた1社です。

同社の現在のIT関連事業の柱は大きく、「クラウド・ホスティング事業」(at+linkベアメタルクラウドほか)、「クラウド型テレフォニー事業」(BIZTEL)、そして今回取り上げる「セキュリティプラットフォーム事業」(PCI DSS Ready Cloudほか)の3本となります。市場先駆者としての知見を活かし、きめ細かな対応を伴ったサービス差異化で、着実に業績を伸ばしています。いずれもテレワークの拡大を後押ししてきたソリューションです。

 

なかでも2013年に、クレジット産業特化型プライベートクラウドサービスとして立ち上げた、「PCI DSS Ready Cloud」は、今や、国内のクレジットカード決済サービス関連企業約500社が何らかの形で利用する、一大サービスへと成長しました。
金融決済業務全般において、業務センターでのオンプレミス型が長らく主流で来たなか、クレジットカード決済業務においてもクラウドサービスの採用・利用は難しい、とサービス開始当初は見られていましたが、この10年余りでの浸透は驚くばかりです。
そして、こうしたクラウド型業務システムの浸透、と同時並行にクラウド型コンタクトセンターシステム(リンク社では「BIZTEL」)の浸透が、業務センターに必ずしも集合することなく、在宅テレワークによるクレジットカード関連業務遂行を可能にする道を拓きました。

 

サービス名冒頭のPCI DSS」とは、Payment Card Industry Data Security Standardの略称で、American ExpressVISA、マスターカード、JCBほか国際クレジットカードブランド5社によって定められた、グローバルな業界情報セキュリティ基準です。この基準が、クレジットカード業務におけるテレワーク/リモートワーク関連のガイドラインをもカバーしています。
日本国内では、日本カード情報セキュリティ協議会(JCDSCがこのPCI DSS普及活動を推進しており、リンク社はこのJCDSC傘下にあるクラウドサービス部会をリードしています。いわば「国内クレジットカード業界におけるクラウド利活用(、ひいてはテレワーク/リモートワーク)を推進する立場にある」のがリンク社、ということがいえます。

 

「PCI DSS Ready Cloud」をリモート環境で活用する場合の概念図一例

「PCI DSS Ready Cloud」をリモート環境で活用する場合の概念図一例
(リンク社ホームページより)

クレジットカード業務でのリモート化/テレワークがさらに進むためのカギ(1)パブリッククラウドの活用普及

それでもまだ、少なからぬクレジットカード関連業務の現場では、在宅テレワークが難しいと見なされている、一種の課題的状況があります。この要因については、滝村さんによれば、いくつか考えられるとのことです。

 

1)業務センターでのオンプレミス型システムへ多額な投資を実施し、その減価償却が終わっていない事業者が存在すること。
2)他の関連システムへの連携状況が複雑なため、オンプレミス型から容易にはクラウド型に移行しがたい事業者が存在すること。
3)既存SIerのなかには、オンプレミス型からクラウド型に乗せ換えた後に、開発・保守を続けられるケイパビリティを持ち合わせない状況もあること。
4)事業者側担当者の従事歴が長い場合、クラウド型へのアーキテクチャ変化を容易には受け入れない風潮も残存すること。

 

ただ、これらについても「パブリッククラウドサービスが、金融分野でも急速に普及・採用されている状況を踏まえ、早々に変わっていかざるを得ない方向だろう」というのが滝村さんの見立てです。事実、PCI DSSにはAWSAzure Google Cloudほか主要パブリッククラウド各サービスがセキュリティ機能含めて準拠済であり、リンク社も上記概念図で示したAWS活用型のサービスを提供するなど、すでに「PCI DSS準拠システムをオンプレミスで作るより、クラウドを最大限活用したほうが、安価かつ運用保守が容易」という時代に入ってきています。

これらにより、クレジットカード決済業務をめぐっても、センター集合型業務から、リモート/テレワーク等分散型業務へのシフトが進みやすい環境が整っていきます。

主要パブリッククラウドサービスは、PCI DSSに準拠している。
Microsoft Mechanics Team ブログより)

 

クレジットカード業務でのリモート化/テレワークがさらに進むためのカギ(2)業務の切り分け・絞り込みによる最適ソリューション適用

更に、上述の課題的状況を乗り越えるためには、コツがある、と滝村さんは示唆します。それは「PCI DSSに準拠しなければならない業務を切り分け、絞り込んで、同定し、そこに的を絞った最適なソリューションを適用すること」です。

 

クレジットカード関連業務をめぐっては、いわゆる、カード発行者(イシュア―)のみならず、加盟店の開拓および管理者(アクワイアラー)、そして、カード決済のみを代行する決済代行事業者、そして、実店舗やEC/通販事業者等の加盟店、および加盟店から顧客接点業務を受託するコンタクトセンター事業者など、多様なプレイヤーが存在します。こうした中、すべてのシステムにPCI DSS準拠を導入しなければならない事業者は、クレジットカード専業事業者のみに限られます。それ以外の事業者では、カード決済にどうしても必要な業務システム部分のみを切り分け、そこに的を絞ってPCI DSS準拠ソリューションをミニマムで導入すればよい、ということになります。

 

更に、日本においては、PCI DSS準拠と同等の位置づけで、「カード情報の非保持化」施策も進んでいます。特に、カード情報の窃取/漏洩リスクにより直面しやすい、EC/通販事業者等において、この取組要請は顕著です。そのため、「一切のカード情報が通過・保持されない(≒カード決済関連プロセスは、PCI DSS準拠の決済代行事業者もしくはカード情報文字列置換(トークン化)事業者等に遷移する)」形をとった、EC/通販事業者等向けソリューションも、より手軽な対応観点で、重要になっています。

 

リンク社は、上述してきたような事業者別の個々の状況や要望に合わせ、それぞれに対応したソリューションを手掛けてきており、「一社向けにローンチしたら、その情報を聞きつけて、同じ悩みを持つ他社でも採用検討が始まる」(滝村さん談)ことで、結果的にソリューションの型紙化も進んでいます。こうした取り組みにより、クレジットカード業務のリモート化/テレワークをめぐっては、「既に、在宅ワーク中心であっても、適切な運営を可能とする環境は実現している。あとは、各社の個別状況や個別課題に合わせた取り組みを、如何に一歩ずつ進めていくか、だけ」という状況であることが分かります。

 

カード情報を非保持化するための一手法「トークン化」の概念図

カード情報を非保持化するための一手法「トークン化」の概念図一例
(リンク社ホームページより)

キャッシュレス決済の更なる普及により、クレジット等決済カード情報の取扱重要性はますます高まっていきます。と同時に、その手数料コストにも着目が高まっており、「適正なコストでの決済」への要請も、ますます高まりそうです。こうした状況を踏まえ、業務プロセスの見直しを通じ、省力化、そして働き方の柔軟化/多様化、の必要性はますます高まっていきます。テレワーク推進の観点からも、引き続き「日々のお金の流れを支える」決済分野での動向からは目が離せなさそうです。

 

次回以降も引き続き、会員組織インタビューも交えながら、テレワーク・ニューノーマルの状況を探ってまいりたいと思います。

 

(つづく)





著者:主席研究員 岩田祐一

NTT持株/東日本/コミュニケーションズ、並びに、情報通信総合研究所、NTT Capital UK、NTT Europe、中曽根平和研究所、NTTセキュリティ・ジャパンなどを経て現職。専門はデジタル時代のセキュアな発展戦略及びリスク対応戦略全般。